2004 第4回生物学特別講義 

「大腸菌の形質転換系を用いた遺伝物質の同定」 の詳細

2004年9月9日(木)・10日(金)  13:00〜16:00


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勉強したこととその背景

この部分は生物Uの授業で使用したテキストの一部です。事前に学習したものです。

@ 遺伝子組み換え

用語の解説

ベクター

組み込みたい遺伝子を組み込まれる細胞のDNAまで運んでいく役割をさせるDNA。大腸菌に組み込む場合はプラスミドが、真核細胞生物に組み込む場合はウイルスがよく使われます。

プラスミド

染色体とは別に細胞質中にある環状のDNA。染色体の遺伝子とは独立して増殖し、他の細胞へ移動します。

ウイルス

遺伝子がタンパク質の殻に入っているだけで細胞を持ちません。

自分の複製を作るのに必要な酵素を持たないため、単独で増殖することが出来ません、生きている細胞に感染し、自分の遺伝子を宿主の細胞内で働かせ自分の複製を作らせ増殖します。

ファージ

大腸菌などの細菌に感染するウイルスのことです。

制限酵素

細菌は自分自身をファージから守るためにファージのDNAを切断する酵素を持っています。これが制限酵素です。

制限酵素は特定の塩基配列を認識し、その部分を段違いに切断します。細菌は制限酵素が切断する塩基配列の部分をガードすることで、同じ塩基配列を持つファージのDNAを切断し、ファージの感染を防ぎます。

制限酵素で切断したDNAの切断箇所は、粘着末端と呼ばれ、図のように段違いに切れています。

したがって、同じ制限酵素で切断したDNAの断片どうしは、リガーゼと呼ばれる酵素によって結合出来ます。異なる種類の制限酵素で切断した断片は切断面が合わないために結合出来ません。

リガーゼ

同じ制限酵素で切断したDNAの粘着末端どうしを結合させる酵素です。

逆転写酵素

RNAの遺伝情報をDNAに逆転写する酵素です。RNAポリメラーゼの逆の働きをします。

遺伝子組み換え

遺伝子組み換えとは何らかの方法で手に入れた遺伝子(実際にはDNAの断片)を細胞に組み込み、働くようにすることです。

この技術は、動植物の品種改良。医薬品の開発。遺伝病の診断や治療などに利用することが期待されています。

すでに各種の洗剤などに入っている「酵素」、糖尿病の治療に欠かせない「インシュリン」などは、酵素やヒトのインシュリンの遺伝子を微生物に組み込み生産をしています。

また、生物学や医学、薬学などの研究に欠かせない手段になっています。

組み込みの方法

@ 組み込みたい遺伝子を含むDNAを手に入れます。

直接手に入れにくい場合、逆転写酵素を使ってm-RNAから作る事も出来ます。塩基配列が明らかであれば、人工的に作ることも出来ます。
組み込みたい遺伝子を含むDNAを適当な制限酵素で切断します。

A ベクター(運び屋)として使うプラスミドやウイルスのDNAを同じ制限酵素で切断します。

B 制限酵素で切断したベクターに、同じ制限酵素で切断した組み込みたいDNAを加え、リガーゼと呼ばれる酵素を使って結合させ、ベクターのDNAに組み込みたい遺伝子を組み込みます。

同じ制限酵素で切断したDNAは切断面が相補的になるので、リガーゼで接着することが出来ます。

制限酵素が「ハサミ」、「リガーゼ」がのりです。

C ベクターを組み込みたい細胞に感染させます。ベクターが細胞のDNAに組み込まれます。

プラスミドは細胞にはいるだけで働きます。ウイルスは細胞のDNAに自分のDNAを組み込んでしまう性質があります。

*今回の実習で行ったのは実際にはこの部分だけです。

組み換えに成功した細胞の選別(スクリーニング)

@ 組み込みが成功した細胞だけを選び出すために、組み込みたい遺伝子にあらかじめ目印となる別の遺伝子を付け加えておきます。

例えば、抗生物質に耐性を持つ遺伝子を組み込みたい遺伝子にくっつけておきます。

遺伝子を組み込んだ後、細胞を抗生物質を含む培地で培養すれば、抗生物質に耐性を持つ遺伝子を組み込まれた細胞だけが生き残ります。

A 生き残った細胞には目的の遺伝子も組み込まれているはずです。

B このように、目印として使う遺伝子をマーカーと呼びます。

A核酸が遺伝子の本体であることはこのようにしてわかった

肺炎の原因になる事で知られてい肺炎双球菌には病原性があるS型と病原性のないR型があります。

肺炎双球菌の型は遺伝する事から遺伝子によって決められていると考えられます。

グリフィスの実験(1928年)・ 形質転換の発見

実験1

S型菌(病原性あり)をマウスに注射→マウスは肺炎にかかって死にます。

実験2

R型菌(病原性なし)をマウスに注射→マウスは肺炎にかかりません。

実験3

死んでいるS型菌(病原性あり)をマウスに注射→マウスは肺炎にかかりません。

実験4

死んでいるS型菌(病原性あり)と生きているR型菌(病原性なし)を混ぜたものをマウスに注射→マウスは肺炎にかかって死に、マウスの体内から生きているS型菌(病原性あり)が発見されました。

この実験からわかったこと

死んでいるS型菌は、R型菌をS型菌に変化させる力を持っています。

この現象は「形質転換」と呼ばれます。

形質転換はどうして起こるのだろうか

肺炎双球菌の型は遺伝します。よって、形質転換とはR型菌の病原性に関する遺伝子がS型菌と同じものに変化する事と考えられます。

では、何がR型菌の遺伝子をS型菌のものに変えたのでしょうか。

アベリーの実験  (1944年)・ DNAが遺伝物質であることをはじめて示唆

実験1

S型菌をすりつぶした液を、生きているR型菌に混ぜて培養。→生きているS型菌が出現。

わかったこと

S型菌の持っている物質が形質転換を引き起こすと考えられます。

実験2

S型菌をすりつぶした液をタンパク質分解酵素で処理し(タンパク質をこわす)、生きているR型菌に混ぜて培養→生きているS型菌が出現します。
わかったこと

タンパク質は形質転換を引き起こす物質ではありません。

実験3

S型菌をすりつぶした液をDNA分解酵素で処理し(DNAをこわす)、生きているR型菌に混ぜて培養す→S型菌は出現しません。
わかったこと

DNAが形質転換を引き起こす物質です。

→形質転換を引き起こす物質は遺伝子である可能性が高い。S型菌の病原性を持つ遺伝子がR型菌に取り込まれ、R型菌がS型菌に変化したと考えられます。

この実験で、遺伝子の本体はDNAである可能性が高いことがしめされました。

ハーシーとチェイスの実験(1952)・DNAが遺伝子の本体であることを証明

ハーシーとチェイスは大腸菌に寄生するウイルスであるT2ファージの増殖の仕方を研究しました。

T2ファージはタンパク質の殻の中にDNAが入っている構造をしています。

増殖するときは大腸菌にとりつき大腸菌内で自分のコピーを作ります。

自分のコピーを作るためには自分の遺伝子が必要です。大腸菌の中にT2ファージの遺伝子は入るはずです。

ブレンダー実験

ハーシーとチェイスは「ブレンダー実験」と呼ばれる実験によって、T2ファージは増殖するときに大腸菌内にDNAしか入らず、タンパク質は大腸菌の外に残ることを示しました。

タンパク質は遺伝子ではありません。DNAが遺伝子であることがわかります。

T2ファージを35S(Sの放射性アイソトープ)を含む培地で育てた大腸菌を使って培養します。これでタンパク質が35Sでラベルされます。(Sはタンパク質には含まれるがDNAには含まれません)
同様にして32P(Pの放射性アイソトープ)を使ってDNAをラベルします。(PはDNAに含まれるがタンパク質には含まれません)

実験1

35Sでラベルした(タンパク質をラベル)T2ファージを大腸菌に感染させます。
ブレンダー(ミキサー)で大腸菌を含む溶液を十分かくはんした後、超遠心機で沈でんと上清を分離します。

ファージの粒子は大腸菌の表面に付着することはすでに知られていました。

ブレンダーでかくはんすると、付着したファージの粒子は大腸菌の表面から振り落とされると考えられます。

この振り落とされたファージの粒子は極めて小さいため、超遠心機で遠心分離しても沈でんせず、上清に含まれます。

一方、大腸菌は遠心分離すると沈でんします。

結果

放射線を測定すると、上清から放射線が検出されました。

タンパク質は大腸菌内に入らなかったことがわかりました。

実験2

32Pでラベルした(DNAをラベル)T2ファージを大腸菌に感染させます。
ブレンダー(ミキサー)で大腸菌を含む溶液を十分かくはんした後、超遠心機で大腸菌の沈でんと上清を分離します。

結果

放射線を測定すると、沈でんから放射線が検出されました。

DNAは大腸菌内に入ったことがわかります。

この実験からわかったこと

実験1では上清から放射線が検出され、沈でん(大腸菌の菌体)からは放射線が検出されません。

これは、35Sでラベルされたタンパク質が大腸菌の中には入らなかったことを意味します。

よって、タンパク質は遺伝子ではないことがわかります。

実験2では上清から放射線が検出されず、沈でん(大腸菌の菌体)から放射線が検出されます。

これは、32PでラベルされたDNAが菌の中に入ったことを示しています。

よって、DNAが遺伝子の本体であることが証明されます。


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