2004 神奈川県立逗子高等高校 生物学特別講義 

「実 物 に 触 れ る 生 物 学U」の記録

SPP(サイエンス・パートナーシップ・プログラム)

2004年6月17日〜9月10日


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第1回分類 第1回詳細1  第1回詳細2   第2回培養細胞  第2回詳細  第3回メダカ  第3回詳細  第4回遺伝子組み換え  第4回詳細 

特別編1培養細胞  特別編2ウニのクローン  総合学習GFP  ラムダDNA解析


はじめに

逗子高校では3年前から大学の研究者に講師を依頼して実験・実習を行う「生物学特別講義」を行っています。

このHPは2004年度6月〜9月に4回、計8日間実施した「2004生物学特別講義・実物に触れる生物学U」の記録です。

高校の生物の教科書には様々な生物が登場します。細胞やDNAについても学びます。しかし、それらの実物に触れる機会はあまりありません。

普段触れることの少ない「磯の動物」と「培養細胞」の観察と実験、「ニジマスの稚魚」のパラフィン切片の製作、「メダカ」を使ったメンデルの法則の実証実験。「遺伝子」そのものを扱うバイオテクノロジーの実験を実施しました。

特別講義は次のようなねらいを持って行いました。

本年度の生物学特別講義は昨年度、一昨年度に引き続き「サイエンス・パートナーシップ・プログラム(SPP)・研究者招へい講座57」として実施することができたため、内容を充実させることができました。

また、SPPで得たノウハウや機材を生かし、SPPで知り合いになった先生の援助を受け、新しい実験を授業に取り入れた取り組みも行いました。


順次各回の詳細な報告をのせたいと思います。詳細は写真をクリックしてください

第1回 「磯の動物の観察と系統分類・臨海実習」

6月17日(木) 9:00〜17:00

場所:東京大学大学院 理学系研究科 附属臨海実験所(三崎臨海実験所)

講師:東京大学臨海実験所所長 教授 赤坂 甲治先生  助手 佐藤 寅夫先生

内容:

現在生きている動物の基本的な全てのタイプ(ボディプラン)は約6億年前の海の中で進化しました。これが現在門と呼ばれる最も大きな分類群です。磯ではほとんど全ての門に属する動物を観察することが出来ます。

生物学の勉強はまずこの海の動物の観察から始めるべきです。

大潮の日の干潮時に磯の動物の観察と採集の実習を行いました、採集した動物は実験室に持ち帰り、佐藤先生の指導の元、各班で門レベルの分類を行い、その後さらに詳細な分類を行い、動物系統分類学の講義を受けました。その後、赤坂先生による進化とDNAに関する講義を受け、実験所の施設見学を行いました。

写真は実験所の前の磯に採集に向かっているところです。大潮で潮が大きく引いています。


第2回 「組織切片の製作と観察および培養細胞による描画実験」

7月15日(木)・16日(金) 13:00〜16:00

場所:県立逗子高等学校 生物実験室

講師:東京海洋大学 海洋科学部 助教授 羽曽部正豪先生

内容:

1日目:魚類の培養細胞をコラーゲンで描いた文字の上に接着伸展させる「培養細胞による絵文字の描画実験」を行い、細胞が組織を作るメカニズムについて学びました。さらに、細胞の培養方法や観察方法等について学習しました。実際に生きている培養細胞を観察し細胞分裂や組織が形成される様子を観察しました。

2日目:ニジマス稚魚のパラフィン包埋切片を製作しました。4/1000mmの厚さに切った切片のヘマトキシリンエオシン染色を行いました。標本を自分で作ることで組織の観察結果から実際の構造を推定しやすくなります。
この標本は一枚のプレパラートでほとんどすべての組織の観察をすることが出来る優れたものです。プレパラートの作成と平行してすでに準備してあるプレパラートの顕微鏡観察を行いました。

写真は倒立顕微鏡で培養細胞の観察をしているところです。


第3回  「メダカを使った交配実験・表現型とDNA解析による遺伝子型の決定によるメンデルの法則の実証」

7月23日(金)8:30〜12:30  26日(月)・27日(火)12:30〜17:00

場所:県立逗子高等学校 生物実験室

講師:東京大学大学院 理学系研究科 講師 成瀬 清先生、技術官 島田 敦子先生

1日目:メダカの人工受精の方法や雌雄の見分け方などメダカに関する講義を受け、体色に関する劣勢突然変異体のメダカ(赤メダカ)と野生型メダカ(黒メダカ)の人工受精を行いました。あらかじめ準備したF1どうしの人工受精も行いました。

2日目:1日目に人工受精させた胚を顕微鏡で観察し、F1個体がすべて野生型になること確かめ、優性の法則が成立することを確認できました。F2については二組の対立形質について調べ、その表現型が 黒:黒ブチ:赤:赤ブチ=9:3:3:1に分離することを確かめ、分離の法則、独立の法則を確認できました。
さらに、遺伝子型を調べるために、F2個体からDNAの抽出をおこない、遺伝子の増幅(PCR)を行いました。

3日目:2日目PCRを行ったDNAの電気泳動を行い、解析をしました。体色遺伝子座と連鎖しているDNAマーカーを調べました。体色遺伝子と、体色遺伝子の近くにに存在するDNAマーカーとの間には組み換えは起こらないことを確認し(表現型と遺伝子型が矛盾しない)遺伝子型を推定しました。体色遺伝しから離れたDNAマーカーでは一部遺伝子型と表現型が矛盾し、異なる遺伝子型が推定される(体色遺伝子座との間で組み換えがおこる)ことを確認しました。実際には体色遺伝の近くのDNAマーカーの結果がはっきりしなかったので正確に遺伝子型を推定することは出来ませんでした。

写真は受精後3日目の黒メダカの胚です。黒色色素胞が全体に分布しています。


第4回「大腸菌の形質転換系用いた遺伝物質の同定」

9月9日(木)・10日(金) 13:00〜17:00 

場所:県立逗子高等学校 生物実験室

講師:東邦大学理学部 分子生物科学科 助教授 佐藤浩之先生

内容: 

1日目:最初に培地の作製に関する説明を聞き、培地を作製し加圧滅菌を行いました。滅菌中にアベリーの実験や形質転換に関する講義を聞きました。

加圧滅菌が終了したら、シャーレに寒天培地を作り、DNA供与菌(抗生物質に対する耐性遺伝子とGFP遺伝子を持っている)を加熱処理し遺伝子を抽出しました。抽出液をDNA分解酵素およびタンパク質分解酵素で処理しました。抽出液を受容菌(遺伝子を組み込む菌・耐性遺伝子やGFP遺伝子を持たない)に加えヒートショックという方法で遺伝子を導入しました。

異なる処理を行った大腸菌を抗生物質を含む培地にまき、37℃で培養しました。

2日目:37℃で一晩培養したシャーレのコロニーの数をカウントし、紫外線を当てGFPが光ることを確認しました。GFPが作られていると言うことは遺伝子の導入に成功した証拠です。また、DNA供与菌の抽出物をDNA分解酵素で処理したものでは遺伝子の導入が失敗し、タンパク質分解酵素で処理したものでは遺伝子の導入が成功しました。このことからDNAが遺伝子であることが確認できました(アベリーの実験の再現)。

写真はGFP(緑色の蛍光を発するタンパク質)の遺伝子の導入に成功した大腸菌です。紫外線を当てると緑色に光ります。


SPP(サイエンス・パートナーシップ・プログラム)について

昨年度に引き続き、今年度も逗子高校の生物学特別講義は文部科学省のサイエンス・パートナーシップ・プログラム(SPP)として認められました。
SPPとは大学等の研究者を学校に招いて実験実習を中心とした授業を行う場合、企画内容が認められれば、講師料や機材を購入する予算の援助が受けられる制度です。

この制度を利用することで、高校では困難な高度な技術や機材を必要とする実験が可能になります。


特別編の記録

SPPとして行ったものではありませんが、いくつかの関連した取り組みを行いました。

「特別編1 培養細胞の観察と描画実験」 2年生物T」 の記録

第2回生物学特別講義の1日目の培養細胞の観察と実験とほぼ同じ内容を2年生向けに行いました。  

特別編1培養細胞

「特別編2 胚分割によるウニのクローンを作る実験」 の記録

バフンウニの胚分割によるクローンを作る実験を臨海実験所で行いました。   

特別編2ウニのクローン

「総合学習ステップアップ講座・遺伝子から見た生物」の記録

「遺伝子から見た生物」@GFP遺伝子の大腸菌への導入  総合学習GFP  

「遺伝子から見た生物」AGFPのカラムクロマトグラフィーによる精製  総合学習クロマト  

「遺伝子から見た生物」BGFPのアクリルアミドゲル電気泳動による確認  総合学習電気泳動

3年生物U・ラムダDNA断片解析」の記録

ラムダDNAを制限酵素pで切断し電気泳動により官辺の大きさを決める実験を生物Uの授業の中で行いました。  

生物UラムダDNA解析


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理科 野村 浩一郎