2004 生物学特別講義 特別編 

「培養細胞の観察と描画実験」 2年生物T

2004年10月


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はじめに

東京海洋大学の羽曽部先生の培養細胞の観察と生物学特別講義は今回で3回目となりました。

本年度も3年の生物U選択者に対して7月にSPPとして実施をしました。

この実験の内容は動物の組織がどのようにしてつくられているのかを実験と観察で示すもので、2年の生物Tの動物の組織の内容と関連が深いものです。そこで羽曽部先生の指導の元で2年生全クラス(本校では2年の理科は物理・生物・地学から1科目選択です。生物選択者のクラスは5クラスあります)で授業時間の中で実施することを計画しました。1クラスあたり授業は2時間(一部のクラスでは3時間)をあてました。

必要な機材は羽曽部先生から提供を受け、授業は私(野村)ともう一人の生物の教員(木暮)の2名で行いました。このような形でこの実験を実施するのは羽曽部先生もはじめてであるとのことで、大変ご無理をお願いしさまざまな指導をいただきました。

この授業の実施のためには1週間以上にわたって培養細胞を高校の実験室で培養し、必要に応じて取り出すことが必要です。そのために必要な機材は羽曽部先生が様々に工夫されたものを利用しました。この羽曽部先生の工夫された機材は十分に高校の実験室で利用できることがわかりました。

なお、実験機材や材料に関する質問は 東京海洋大学海洋科学部 羽曽部正豪助教授までお願いいたします。

1時間目 培養細胞のサンドイッチ法による観察

サンドイッチ法により浮遊状態と接着伸展した状態の培養細胞を観察をします。接着伸展を待つ間、細胞培養の方法などについて説明をしました。

20分後、伸展した細胞を観察し、ホルマリンで固定し生きている細胞との違いを観察しました。

市販のキャンプ用のクーラーと熱帯魚用の温度調節器を改造したインキュベーターです。黒いコードが温度センサーです。内部の温度を20℃に保つことが出来ます。

ボトルの内部は無菌になっています。無菌状態を維持したまましたまま細胞浮遊液を取り出すことが出来ます。

取り出した細胞液を3mlづつチューブに分注し各班に配布します(一人あたり0.5mlの細胞液が必要です)。25度を超えると細胞の活性が低下するので出来るだけ暖めないように注意します。インキュベーターに使う直前まで入れておきます。

滅菌済みの培養用シャーレのふたの内側にマーカーで○を書きます。シャーレの側面にはクラスと名前も書かせます。 約0.5mlの細胞液を○の部分に滴下します。
シャーレの底の部分を反対向きにして培養液の上にのせてはさみます。 これでほぼ無菌的に細胞液を密封できました。1日程度の連続した観察が可能です。

普通の顕微鏡で観察をします。対物レンズは10倍を使います。40倍は作業距離が確保できないので使えません。

絞りを絞り細胞にピントを合わせます。絞らないと細胞が見えません。マーカーでつけた円にまずピントを合わるとうまくいきます。次に少し絞りをあけて反射鏡を調節して光が斜めから当たるようにします。

対物10倍・接眼15倍を使います。うまく光を斜めから当てると微分干渉顕微鏡のように見えます。ここがこつです。

細胞は球形をしていてよく見るととげのような短い突起が確認できます。

普通の明視野顕微鏡でで絞りを絞ってみたものです。対物10倍・接眼10倍です。 30分後のものです。細胞が平べったくなり、シャーレの底に張り付いています。これが接着と伸展です。このように細胞には何かに接着しようとする性質があることがわかります。

接着している細胞を10%ホルマリンで殺します。シャーレのふたを取り10%ホルマリンを数滴滴下してまたふたをします。(左)

ホルマリンで固定した細胞です。よく見ると細胞に丸いふくらみ(プレップ)が生じていることが確認できます。位相差顕微鏡で観察すると特にはっきりわかります。(下)

この現象は細胞が死にNa+ポンプが止まったため細胞内のNa+濃度が高くなり、浸透圧によって水細胞内にが流入し、そのために細胞がふくらんでしまったためと考えられます。

グルタールアルデヒドで固定するとプレップが生じず生きている時と同じ状態の細胞を観察できます。伸展した状態の細胞がどんな状態なのかわからない生徒が多いので、伸展した状態の細胞をグルタールアルデヒドで固定したものを準備しておいて、それを観察させることも出来ます。

2回目 培養細胞による文字書き実験

細胞はコラーゲンの繊維に接着する性質があります。多細胞動物の組織はコラーゲンで出来ている基底膜に細胞が一層に接着することで出来ています。

一方、血漿中に最も多く含まれているアルブミンと呼ばれるタンパク質は細胞どうしの接着を防ぐ働きを持っています。

この性質を利用し、シャーレの底にコラーゲンで絵を描きそこに細胞を接着させます。

各班に30mlずつ細胞液を50mlのチューブに入れて配布します。コラーゲンの溶液、BSA(牛血清アルブミン)も配ります。

大型の培養装置です。一人あたり5〜10mlの細胞液が必要です。 1回目のクーラーをクール宅急便の段ボール箱の上部にセットし大型の培養装置が入るインキュベーターを作りました。前面はゴミ袋のビニールで覆いました。

シャーレの底に綿棒を使ってコラーゲンの水溶液(ゼラチン)で絵や字を書きます。ふたを取り、電子レンジで1分間乾燥させます。

コラーゲンが乾燥したら血清アルブミン(BSA)の溶液をシャーレの底が浸るぐらい入れ、1分程度置いてから液を捨てます(この操作をブロッキングと呼びます)

BSAの液をよく切ってから細胞液を7ml程度入れふたをして40分以上培養をします。

30分以上たったらシャーレを少し傾けてみます。コラーゲンで字を書いた部分だけに細胞が接着していることが肉眼でも確認できます。液を少し減らして(3mm以下にすれば10倍の対物レンズが使えます)、10倍の対物レンズで観察することも出来ます。

40分以上培養しないと細胞が十分接着伸展しないので、ここで授業は終わりにしました。昼休みか放課後にクリスタルバイオレットで染色をさせました。

3時間目

シャーレを良く揺すって接着していない細胞をはがして液を捨てます。その後クリスタルバイオレット染色液をシャーレの即全体に行き渡るように滴下し、1分後染色液を捨て軽く水洗いします。染色が終わったシャーレを顕微鏡で観察をします。

完全に伸展した細胞の観察と傷ついた組織が修復される様子の観察も行いました。

染色が完了したシャーレです。生徒はいろんな絵を描いています。コラーゲンで描いた絵のとおりに細胞が接着していることがよく分かります。
良くできています。
染色をせずに位相差顕微鏡で見たものです。境目が大変にシャープであることに注意。上の細胞の固まりは浮遊している細胞です。対物10倍、接眼10倍。

クリスタルバイオレットで染色した細胞を顕微鏡で見たものです。細胞はコラーゲンを認識し、その部分だけに正確に接着しています。細胞の形がよく分かります。下にはみ出しているのはコラーゲンを塗る時にはみ出た部分と思われます。対物10倍・接眼10倍。

40倍の対物レンズ、接眼10倍で観察をしました。

端がきわめてシャープであることがわかります。

クリスタルバイオレットは細胞質にも色がつくため細胞で描いた絵がはっきりと染まります。しかし、細胞内部の構造はうまく染まりません。

細胞を完全に接着伸展させるためにシャーレの底全面にコラーゲンを塗り一晩細胞液を培養したものを準備しました。

伸展した細胞の層にピペットチップで傷を付け、しばらくたってから観察をしました。

肉眼で見たものです。傷の部分に新たに細胞が接着して傷が薄くなっていることがわかります。

普通の顕微鏡で絞りを絞り気味にしてみたものです。対物10倍・接眼15倍を使っています。細胞がすき間なく接着伸展していることがよく分かります。コントラストは低いですが位相差顕微鏡よりも細胞の形はよく分かります。

傷の部分を位相差顕微鏡で見たものです。伸展している細胞はすき間なくきれいに一層になって接着をしています。はがれた部分には新たな細胞が接着を始めていることがわかります。

上のコラーゲンの文字に接着させたものと境目の部分を比較するとコラーゲンの部分に接着したもののほうが境目がはっきりしていることがわかります。

分光光度計で細胞液の吸光度を測ることで細胞液の細胞の濃度を測定できます。細胞数が1立方ミリメートルあたり100万個を維持するように培養をします。 生物実験室の様子です。

実験の詳細については ここをクリックしてください。 (まだ工事中です)


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