第5・6回 「遺伝子の内容を読んだり書き換えることができる」の記録1(遺伝子組み換え実験)

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遺伝子組み換え実験の写真集です

バイオラッド社のキットです。
左の袋がLB寒天培地(粉末)、ビンは左から大腸菌K12株HB110(凍結乾燥品)、LB培地(液体)、アラビノース、p-GLOプラスミド、アンピシリン、形質転換溶液です。

培地の準備をしています。寒天培地は三種類作ります。LB培地(今回の実験に使う大腸菌K12株が生育しやすいもの)とアンピシリン(抗生物質大腸菌を殺してしまう)を加えたものとアンピシリンリンとアラビノース(糖の一種)を加えたものです。これらの準備は数日前に行っておきます。

DNAの構造について講義をしています。左上

昨日から培養してある大腸菌のコロニーをループでとり形質転換溶液の入れてあるチューブに入れます。培養開始から24時間後が最も大腸菌の活性が高く遺伝子組み換えに適しています。さらに、組み込む遺伝子の入ったプラスミドを加え氷冷します。

形質転換溶液(塩化カルシウム水溶液)は大腸菌の細胞膜の性質を変化させプラスミドを取り込みやすくします。

操作は無菌的に行う必要があります。机上をエタノールで消毒しアルコールランプが作る上昇気流中で操作をします。

大腸菌にプラスミドを加えたチューブを42℃のお湯に50秒間つけます。この操作で大腸菌の細胞膜は不安定な状態になり、プラスミドが大腸菌に取り込まれます。この操作をヒートショックと呼びます。

ヒートショックを与えたチューブを直ぐに氷冷します。ヒートショックを与えた大腸菌は不安定な状態です。すぐ氷冷しないと失敗します。これで、目的の遺伝子が組み込まれたはずです。

遺伝子組み換えを行った大腸菌をマイクロピペットで培地にまいています。その後ループで全体に広げます。
大腸菌をまきおえた培地はフタをしてから逆さまにしてテープで止め、一晩37℃で培養します。これで今日は終わりです。

可視光線で見た結果です。

組み込んだプラスミドには
@GFP(紫外線を当てると緑色の蛍光を発するタンパク質)の遺伝子
Aアンピシリン耐性遺伝子(アンピシリンを分解しアンピシリンで死ななくなる)
BアラビノースがあるときだけGFPの遺伝子を働かせる遺伝子スイッチ
があらかじめ組み込んであります。

コロニーは一個の菌が増殖したものです。したがってコロニーの数はもともとの菌の数を示しています。

CLB培地に組み換えをしていない菌を植えたものでは多数の菌が生育しました(数が多すぎてコロニーの数を数えることは出来ません)

Bアンピシリンを培地に加えたものでは組み換えをしていない菌は全く生育できませんでした。

A@アンピシリンを加えた培地で組み換えた菌は生育しています。Cと比べコロニーが少ないのは組み換えに失敗したものがあるためと考えられます。Aと@のアラビノースの有無による違いはここでは認められません。

*上の写真は予備実験の時のものです。下の写真のものと同じものではありません。

紫外線を当てて観察をした結果です。

@のアラビノースを加えていない培地のコロニーは緑色の蛍光を発していません。GFPの遺伝子が働いていないことがわかります。

Aのアラビノースを加えた培地のコロニーは緑色の蛍光を発しています。GFPの遺伝子が働いていることがわかります。

@の蛍光を発していないコロニーにアラビノースの溶液を垂らし数時間後に観察をすると、蛍光を発します(@のオレンジの点線の中)。アラビノースがGFPの遺伝子のスイッチを入れたことがわかります。

Cの遺伝子を組み換えていない大腸菌はもちろん蛍光を発していません。

GFPの発する蛍光は時間とともに強くなります。左の写真はほぼ24時間後のものです。非常にきれいです。

このGFPの遺伝子は働いているかいないかがすぐにわかるために、働いているのかどうかを知りたい遺伝子のすぐ近くに組み込み、目的の遺伝子が働いているのかどうかを知るための目印(マーカー)として広く使われています。

また、アラビノースなどによって特定の遺伝子のスイッチが入る仕組みはオペロンと呼ばれ、もっともよく知られた遺伝子スイッチの例です。

詳細は、テキストを見てください。

形質転換効率を求める(おまけです)

講座では省略しましたが形質転換効率の計算もできます。実際にこの実験で遺伝子の組み換えに成功する割合はどのぐらいでしょうか。予備実験の時に行った実験を紹介します。 

Aまたは@のアンピシリンを加えた培地では組み換えに失敗した菌はアンピシリンに耐性を持たないので死んでしまいます。それに対してCの培地にはアンピシリンが加えられていないのですべての菌が生育しているはずです。

Aまたは@コロニーの数とCのコロニーの数を数えA/Cで組み換えに成功する割合が求められるはずです。

しかしCでは多数の菌が生育しているためコロニーを数えることが出来ません。そこでCにまいた菌の溶液を形質転換溶液で10倍、100倍・・・と希釈してそれぞれ別の培地にまき同じ条件で培養します。上の写真では1000倍希釈したもので400程度のコロニーを数えることが出来ます。1000倍希釈で400ということは元は400×1000=400000ということになります。

Aの培地では400程度のコロニーを数えられるので、組み換えに成功する割合は400/400000=1/1000つまり約0.1%です。

安全に実験を行うために

実験の前後、実験台や手はエタノールで消毒します。

大腸菌や大腸菌をあつかったピペットチップやループ(大腸菌を培地にまくときに使う)はオートクレーブで高圧蒸気滅菌(120℃20分)します。左の写真。

大腸菌K12株は無害でしかもLB培地中でないと生育が困難です。

ベクターとして用いたプラスミドは感染性がないもので他の菌に取り込まれることはありません。

組み込んだ遺伝子GFP遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、アラビノースによる遺伝子スイッチの遺伝子は害のないものです。

以上文部科学省の「教育目的組換えDNA実験指針」に従って実験を行いました。

講座で使用したテキストです

当日配布したテキスト(遺伝子組み換え編・DNA鑑定編)のPDFファイルです。ここをクリックするとダウンロードされます。 

第1回の時に配布しておいたメンデル遺伝とセントラルドグマのテキス「DNAとは何とは何か・はじめて学ぶ人のために」のPDFファイルです。ここをクリックするとダウンロードされます。

テキスト(遺伝子組み換え編)のhtml版です。ここをクリックしてください。 
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*テキストはバイオラッド社のキットに付属しているものを参考にして作成しました。一部の図はキットの図を改変したものです。


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