2005 神奈川県立逗子高等高校 生物学特別講義 実物に触れる生物学2005 「細胞・組織・発生・遺伝・分類 とDNA」 |
第1回分類 第2回ウニの発生 第3回メダカの遺伝 第4回培養細胞
日時: 7月27日11時〜17時 ・28日10時〜16時
場所: 東京大学大学院 理学系研究科 附属臨海実験所(三崎臨海実験所)
講師: 東京大学臨海実験所 赤坂 甲治 先生 吉田 学 先生 東郷 建 先生
内容: 1日目:ウニ(タコノマクラ)の人工受精を行い初期発生の観察を行いました。ホルモン剤の注射により採卵、採精を行い受精の観察をしました。卵割の様子も観察しました。32細胞期まで発生が進んだところで胚を固定しました。チューブリンと呼ばれる分裂装置を作っているタンパク質を抗原として認識する抗体を利用して、チューブリンを蛍光色素で染色しました。2細胞期の胚の分割実験も行いました。
2日目:前日に処理をした分裂装置の蛍光顕微鏡による観察を行いました。平行して前日から継続しているウニの発生の観察を行いました。前日に分割した胚も小さい胚に育っていました。
ウニの発生の観察と蛍光顕微鏡による
分裂装置の観察実習のまとめ
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臨海実験所で撮影した写真のデータをもらいましたのでプリントしました。
簡単な写真の解説と補足説明の資料を作りましたのであわせて読んで勉強してください。
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今回の実習では分裂装置を作っているチューブリンと呼ばれるタンパク質をAlexa488と呼ばれる蛍光色素で染め、DNAをDAPIと呼ばれる蛍光色素で染めました。
Alexa488は495nmの青色光(励起光)を吸収し、519nmの緑色の光(蛍光)を発します。
DAPIは360nmの紫外線(励起光)を吸収し、460nmの青色光(蛍光)を発します。
蛍光顕微鏡のフィルターを切り替えプレパラートに495nnの光を照射(B励起)するとAlexa488が蛍光を発し、分裂装置が緑色に浮かびあがります。染色状態が悪いとチューブリン以外の部分にもAlexa488が付着してしまっていて全体から蛍光が発せられてしまいます。
フィルターを切り替え360nmの紫外線をプレパラートに照射(UV励起)するとDNAの部分から青色の蛍光が発せられます。
それぞれ、デジタルカメラで撮影しコンピュータで重ね合わせると分裂装置が緑、DNAが青に光っている写真が出来ます。
撮影した写真の解説
写真のNo.1と2は実習で撮影した、チューブリン(B励起)とDNA(UV励起)の写真を重ねたものです(実験所のスタッフに作っていただきました)。
No.3と4は実習で作ったプレパラートを逗子高に持ち帰りB励起で撮影したものです。プレパラートを観察し、もっともよく見えるものを撮影しました。
No.5はNo.4と同じ視野を通常の明視野顕微鏡で撮影したものです。
写真の詳しい説明
No.1は中期の細胞です。緑色の蛍光を発している分裂装置と青色の蛍光を発している染色体(DNA)がはっきりとわかります。100倍の対物レンズで観察したものです。
No.2は40倍の対物レンズで撮影をしたものです。中期の分裂像と間期の細胞が見えます。多くの細胞が同調的に分裂をすることがわかります。
No.3は間期の細胞です。中央の黒い部分が核と思われます。そのまわりにチューブリン繊維が出来ていることがわかります。100倍の対物レンズを使いました。
No.4は中期の細胞です分裂装置がよくわかります。100倍の対物レンズを使いました。
No.5はNo.3と全く同じ視野を明視野で見たものです。よく見ると核が確認できます。チューブリンの繊維は全くわかりません。100倍の対物レンズを使いました。
まとめ
この様に蛍光顕微鏡と通常の明視野観察を組み合わせることで、細胞の構造がよくわかります。
蛍光顕微鏡は次に述べる、免疫染色法と組み合わせることで大きな威力を発揮します。
また、蛍光色素によって発する光を観察するために、光学顕微鏡の分解能以下の小さなものでも観察が可能です。
遠くに見える車のヘッドライトの光は夜間であれば、「点」として見えますが、同じ距離のヘッドライトを昼間見ることは出来ないのと同じと考えてください。
蛍光顕微鏡の原理
蛍光物質
ある波長の光(励起光と呼ばれます)を当てると、当てた波長と異なる光(蛍光と呼ばれます)を発する物質のことです。
お化け屋敷などでよく使われている、蛍光塗料はブラックライトで紫外線(励起光)を当てると赤や青の蛍光を発する蛍光物質を使っています。
蛍光顕微鏡とは
蛍光色素で染めた試料に励起光を当て、発する蛍光を観察する顕微鏡です。
試料が発する蛍光を観察する視野には励起光を入れないようにする必要があります。
そのためにフィルターブロックと呼ばれる特殊なフィルターのセットを必要とします。
図の左は蛍光顕微鏡で明視野観察(普通の顕微鏡)を行っているときの図です。
フィルターブロックを入れてありません。また、水銀ランプは消灯しシャッターも閉めた状態です。光源からの光はプレパラートを透過し対物レンズ、接眼レンズを通り眼に像を作ります。
図の右は蛍光観察を行っている図です。
レバーやターレット(ダイヤル)を操作してフィルターブロックをセットします。
水銀ランプを点灯し、シャッターを開けます。
@水銀ランプの光には可視光と紫外線が含まれています。
A励起フィルターは励起光だけを透過します(B励起なら495nmの青色光)。
B励起光はCダイクロイックミラーに当たります。ダイクロイックミラーは励起光を反射させる特殊な加工がしてあります。
Bダイクロイックミラーで反射した励起光は対物レンズを通りDプレパラートを照射します。
Dプレパラートの蛍光色素は励起光によってE蛍光を発します(B励起なら519nmの緑色光)。
E蛍光は対物レンズを通りFダイクロイックミラーに当たります。Fダイクロイックミラーは励起光を反射し蛍光を透過します。蛍光はダイクロイックミラーを透過しG吸収フィルターに達します。
G吸収フィルターは蛍光だけを通します。余分な光はここで吸収され、蛍光は接眼レンズを通り眼に像を作ります。
励起光の一部はプレパラートで反射して対物レンズに入りますがダイクロイックミラーと吸収フィルターで遮られ視野には入りません。
この様に蛍光顕微鏡ではフィルターブロック、特にダイクロイックミラーが重要な役割を果たしています。
今回使用した染色法の原理
DNAの染色
DNAを染色する蛍光色素としてDAPI(4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)を使用しました。
DAPIはDNAの二重らせんの間に入り込む性質を持った蛍光色素です。そのために二重らせんを持つDNAだけを染めることが出来ます。DNAと同じ核酸と呼ばれる物質であるRNAは一重らせんなのでDAPIで染まることはありません。
チューブリンの染色
チューブリンを染色した方法はもっと複雑です。
チューブリンはタンパク質の一種です。タンパク質には大変多くの種類があり、細胞内には大変多くの種類のタンパク質が存在します。
よって、チューブリンだけを染色することは困難です。
そのために、抗原抗体反応を利用した免疫染色と呼ばれる方法を使います。
抗原抗体反応
ヒトのような高等動物は様々な病原体や毒物を無力化する「抗体」と呼ばれるタンパク質を作る能力を持っています。この「抗体」の働きはわれわれを毒物や病原体から守る「免疫」と呼ばれる働きの主要な手段です。(抗体を作るリンパ球をB細胞と呼びます)
「抗体」は免疫グロブリンと呼ばれるタンパク質で、大変多くの種類(数億種以上)があり、それぞれが特定の物質だけに結合することが出来ます。
細胞の表面には細胞によって異なる種類の「目印となる物質」が存在します。われわれは進入してきた病原体が持つ「目印となる物質」にだけ結合できる「抗体」を作ることでその病原体だけをを無力化しているのです。この「目印となる物質」を「抗原」と呼びます。
この「抗体」と「抗原」が結合する反応を「抗原抗体反応」と呼びます。
* 当日のテキストにも詳しいですのでそちらも読んでください。
抗原抗体反応の利用
チューブリンを「抗原」とする「チューブリン抗体」を人工的に作ります。この「チューブリンの抗体」でプレパラートを染めれば、チューブリンを染めることが出来るはずです。
しかし、抗体は無色であるためは目に見えません、「チューブリン抗体」に蛍光色素を結合させる必要があります。
直接法
「抗体」に直接蛍光色素などを結合させる方法です。
間接法
「チューブリン抗体」を「抗原」として認識する別の「チューブリン抗体の抗体」に蛍光色素を結合させます。一個の「チューブリン抗体」には複数の「チューブリン抗体の抗体」が結合するために、直接法よりも蛍光が強くなります。
この場合「チューブリン抗体」を一次抗体、「チューブリン抗体の抗体」を二次抗体と呼びます。
例えば一次抗体をウサギのものを使った場合、ウサギのタンパク質に対する抗体を他の動物、例えば羊などに作らせることが出来ます。この場合、一次抗体にウサギのものを使えば、様々な種類の一次抗体を同じ二次抗体に認識させることが出来ます。そのため1種類の二次抗体を多くの種類の一次抗体に対して利用することが出来ます。
まとめ
今回の実習ではチューブリンに対する抗体(一次抗体)はマウスのものを使い、二次抗体として羊の抗体に蛍光色素Alexa488を結合させたものを使っています。
この方法を利用すれば、どんな物質でもその物質を抗原として認識する抗体を作ることができれば、その物質の細胞内での存在を調べることが出来ます。
第1回分類 第2回ウニの発生 第3回メダカの遺伝 第4回培養細胞
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理科 野村 浩一郎