第6回中学生のための理科実験講座

DNA抽出する実験2004 記録

2004.8.28.横浜市立大学シーガルホール会議室 

本館の表紙


2004年8月28日(土)横浜市立大学での立野高校と合同の学校説明会の一環として横浜市立大学の会議室を借りて行いました。

内容は鳥のレバーからDNAを抽出する実験です。 この実験は危険な薬品を使うこともなく、家庭で行うことも出来る簡単なものです。DNAを取り出すだけのものですが、分子遺伝学への導入として面白くできると思います。この実験で利用した原理は、実際のDNA鑑定などでサンプルからDNAを抽出する時にも使われています。

今年度、一年生の総合学習のローテーション講座(必修)として、1年生全員に実施した実験です。

横浜市内の中学校の生徒を中心に約20名の参加がありました。会場が会議室で必要な機材を全て逗子高校から持ち込んで行いました。講師以外に逗子高校の理科の教員4名と立野高校の理科の教員1名がアシスタントを行いました。教員の数が多いこともあり良く眼が行き届きうまくできました。

うまく抽出できたDNAをうれしそうに見ている生徒の姿が印象的でした。

準備するもの

全体で:ミキサー、鳥レバー150g、1%SDS溶液200ml、氷、かき氷機、ドライアイスまたはフリーザー、位相差顕微鏡、顕微鏡用CCDカメラとモニター一式

各班で:ビーカー300×1・100×4・プラスチック500×1、ガラス棒×2、試験管バサミ×1、アルコールランプ、三脚、金網、ロート、ロート台、3mol/l食塩水30ml、1.5mol/l食塩水20ml、冷エタノール50ml×2、ガーゼ、ろ紙、軍手、使い捨て手袋、ペーパータオル、クラッシュアイス

今回の実験はDNA(デオキシリボ核酸)を不純物であるRNA(リボ核酸)やタンパク質から分離をして出来るだけ純粋にして取り出します。

DNAは細胞の核の中にヒストンと呼ばれるタンパク質に結合している状態で存在します。核内にはDNAの遺伝情報を細胞質へ伝える働きをしているRNA(リボ核酸)と呼ばれる物質も存在します。

DNAとRNAやタンパク質の次のような性質の違いを利用して分離をします。

  1. DNAは1〜2mol/lの食塩水によく溶けます。
  2. RNAは1〜2mol/lの食塩水にはあまり溶けません。
  3. 食塩水はDNAとタンパク質の結合を切ります。
  4. DNAは低温のエタノールにほとんど溶けません。
  5. タンパク質は加熱すると変性し固まります。DNAは熱に強く変性しません。

予め湯煎用の熱湯(300mlガラスビーカー)とクラッシュアイス(かき氷機で作ったかき氷を500mlのプラスチックビーカーに入れておく)を準備しておきます。

鳥のレバー150gに1%SDS溶液(界面活性剤の濃度が1%になるように薄めた台所用洗剤)を200mlと氷2〜3個を入れてミキサーで2分間粉砕します。

  • SDS(界面活性剤)は油を溶かす働きがあります。洗剤はこの働きによって油汚れを落としています。細胞の膜(細胞膜、核膜など)はリン脂質と呼ばれる油が主な成分です。核の中のDNAを溶かし出すためにSDSを使って膜を溶かします。
  • 洗剤を飲むと有毒なのは、消化管の粘膜を作っている細胞の細胞膜を溶かしてしまうからです。
  • 氷を入れるのは、細胞に存在するDNaseと呼ばれるDNA分解酵素の働きを抑えるためです。そのために粉砕後出来るだけ短時間で加熱を始めるようにします。DNaseは熱に弱いので加熱すると働かなくなります。

レバーの粉砕液を約30mlずつ100mlのビーカーに入れて配布しました。

約30mlの3mol/l食塩水(予め計ってプラスチックチューブに入れてあります)を加えガラス棒でゆっくりかき混ぜます。

これ以後は出来るだけていねいに扱います(DNAを保護していたタンパク質と離れるため切れやすくなります)。雑に扱うとDNAが切れて短くなってしまいます

  • 食塩の働きでDNAとタンパク質が離れます。
  • またこの濃度の食塩水にはRNAはほとんど溶けません。

予め準備した熱湯を入れた500mlのビーカーにレバーの抽出液を入れた100mlのビーカーを浸して湯せんします。二つのビーカーの縁を試験管バサミではさみ固定し、アルコールランプで加熱をします。軍手の上にプラスチックの手袋をしてやけどの注意して操作をします。

ゆっくりガラス棒でかき混ぜながら5分間湯せんをします。タンパク質が固まり沈でんを生じます。

*

湯せんが終わったら、手でさわれるぐらいまで100mlのビーカーごとクラッシュアイスにのせて冷却します。4枚重ねのガーゼでろ過をします。ろ液にDNAが含まれています。ろ液を25ml以上とります。

ろ液に触れる方の手はプラスチックの手袋をして操作します。

 

*

ろ液をクラッシュアイスの上で冷たくなるまで冷やします。十分に冷えたらフリーザーで良く冷やしたエタノールを静かに加えます(約50ml予めプラスチックチューブに入れて冷却済みのものを直前に配布します)。

ガラス棒でゆっくりかき混ぜると白っぽい沈でんが生じます。これがDNAです。この段階では不純物が多く「粗DNA」と呼びます。

ガラス棒に巻き付けて空のビーカーに沈でんを移します。ガラス棒から沈でんがとれにくい時はピンセットではがします。エタノールを出来るだけ入れずに沈でんだけをとるようにします。

  • エタノールが多いとDNAが食塩水に溶けにくくなります。

沈でんは1.5mol/lの食塩水20mlで溶かします(食塩水はあらかじめプラスチックチューブに入れたものを配ります)。

再び5分間湯煎をします。これで残っていたタンパク質を完全に変性させます。

写真は実験風景です。中央が立野の高校の先生です。

* 2回目の湯せんをしています。

出来るだけ熱いうちに2回目のろ過を行います。今度はろ紙をロートにセットして行います。ろ液を受けるビーカーをクラッシュアイスで冷やしながらろ過をします。

ろ紙の端を少し切るとろ紙がロートに密着し濾過速度が速くなります。

ろ過には少し時間がかかります。

* ろ液に冷エタノールを加えガラス棒でゆっくりとかき混ぜます。エタノールとろ液の境目からどろっとした沈でんが生じるはずです。
うまくDNAがとれました。
生じた沈でんをうまくガラス棒に巻き付けます。DNAは繊維状をしているためガラス棒に巻き付きます。

*

沈でんを位相差顕微鏡で見たものです。40倍の対物レンズを使っています。

DNAは繊維状の物質であることがわかります。

実際のDNAの分子はもちろん光学顕微鏡で見ることは出来ませんが、その長さは数ミリから数センチあるはずです。ここで見えているものはそのDNAの分子がたくさん束になったものと考えられます。

この中に遺伝情報が書き込まれていると思うと何か不思議な気持ちがします。

写真の上に*が付いているものは当日撮影したものではありません。予備実験などの時に撮影したものです。

この実験は川越女子高校森田保久先生考案の方法を使っています。この場を借りてお礼申し上げます。
この方法は大変良く工夫されていて、急げば50分の授業内で行うことも出来ます。中学・高校の先生方にぜひ試してもらいたいと思っています

当日使用したテキストです。 PDF形式にしてあります。


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